【とんでもない会葬者の話】
都内某所にある大型集合住宅。
60代前半の女性、主婦たちの憩いの場の主が亡くなった。
ご主人を早くに亡くし、子供もいない独り身の寂しさを紛らわすためか、自らの部屋を住民たちの集いの場として開放した。
いつしかそこは、主婦たちの憩いの場となった。
大病を患ってからも、頑なに入院を拒み、自宅療養の傍ら、住民たちとの交流を欠かさなかった。
葬儀は行わず、関西に住む従姉妹が取り仕切っての直葬(火葬のみ)となった。
従姉妹が故人の部屋で遺体と共に数日間を過ごし、火葬当日自宅で納棺をして、火葬場まで運ぶ手はずとなっていた。
自宅納棺・出棺の場合は、手間がかかるため、通常二人でお伺いすることが多いのだが、生憎当社で抱えている葬儀が多い日だった。
立ち会いは従姉妹とその娘だけと聞いていた。
(一人で納棺&出棺か・・・誰か手伝ってくれる人がいればいいけど。。。)
そんなことを考えながら、エレベーターで5階まで上がり、部屋の扉を開けると・・・
居るわ、居るわ!!!
そこそこ広さのある部屋だったが、見知らぬおばちゃん達で寿司詰め状態!
ざっと20名超。
すげーな!!!
そこで初めて代表格のおばちゃんから、ここが【主婦の憩いの場】だったという話を聞いた。
短い時間だったが、憩いの部屋の常連達との良いお別れができた。
さていよいよ納棺となったところで、困った問題が・・・
玄関が狭すぎて、部屋の中で納棺してしまうと、棺を外に運び出すことができない。
そういう場合は、外の廊下に棺を置いておいて、遺体を抱えて外まで出し、廊下で納棺するしかない。
基本的に納棺は女性は手を出さないのが慣例(都内では薄れつつある風習だが・・・)だが、私の他に男手がない。
背に腹は代えられないとばかりに、女性群に頼んだのだが、正直なめていた。
おばちゃんパワー半端ない。
プロである私が完全に乗り遅れる始末。。。
はっきり言って、そこら辺の男なんかよりよっぽど手際も良いし、段取りも心得ている。
懸念していた納棺はあっさり終わったが、各自棺に入れたいものが沢山あるという。
ご近所の主婦が軒並み集まっている。この期に及んで人目だとか、近所迷惑なんてことを気にすることもあるまい。
もう開き直る。
マンションの廊下で賑やかなお別れ式の第二弾が始まった。
騒ぎを聞きつけた主婦がひとり、またひとりと加わる。
外出先から戻ってきた主婦が訪ねる?
【ちょっと寄っていこうかしら?】って、スーパーのタイムセールじゃねー!!!
流石に廊下ではキャパオーバーだ。
仕方がないので、周りに声をかけて、棺を広いエレベーターホールに移動させる。
その後も人は増え続け、最終的に4ー50名くらいになっていた。
エレベーターに乗りたそうに、遠巻に眺める若いカップル。
いや、気持ちは分かるよ。
帰ってきたら、自宅のエレベーターホールが葬儀式場になってたら、そらそうなるわな。
エレベーターホールって、基本そういう場所じゃないし。。。
無事納棺も終わり、棺を1階に下ろす。
マンションの入り口で見送る者、自分の住む階の廊下から見送る者・・・
大勢の声援に見送られて、霊柩車は静かにマンションを後にする。
葬儀は地域で出すもの。
欠かすことのできない人と人との繋がり。
古き良き日本の【人情】を感じることの出来る、素晴らしい死出の門出だった。
まぁ、こっちは相当恥ずかしかったけどね。。。
故人様に心よりの哀悼の意を表して
合唱