とんでもない遺族の話
もう5‐6年前の話。
故人は大正生まれ。喪主を務める奥様はご健在だが、なにぶんかなりのご
満足にお見舞いにも行けなかったからと、
自宅安置も終わり、打ち合わせへと入る。
ひと段落したところで、喪主のひとり娘は葬儀の準備があるからと、一
奥様と私、サブのスタッフ3人で遺影の選定作業に取り掛かる。
なにぶんお年がお年だ。耳も遠けりゃ、脳の活動も停滞気味だ。
円滑なコミュニケーションは期待できない。
あんたじゃ無いよ。ご主人だよ・・・
大体何の記念撮影だよ。
葬儀の成約記念にハイチーズ!
無いよ!そんなサービス!
かがんだ腰に手をやりながら、奥の部屋に消えて行き、しばらくタン
少しして年季の入った木箱をひとつ手にして、戻ってくる。
(ヤベェやつだ。)
この年代の人がタンスの引き出しから引っ張り出してくる小汚い箱
そこには白黒でピンポケした写真が並ぶ。
時代的にも色的にも、遺影の利用価値的にも完全にブラック!
スリーアウト!チェーンジ!
再び箱をガサゴソ・・・
先ほどと変わらず、似たり寄ったりの写真だ・・・
ふと居間のテレビ台の上に飾られた集合写真が目に入る。
私の視線に気づいたのか、奥様が口を開く。
こいつは助かった!
古いものなので、額に引っ付いて取り出すのに苦労したが、写真を傷つけないように細心の注意を払いながら、何とか写真のみ取り出してテーブルの上に置く。森林の中で撮ったラフな格好の写真なので、背景とお召し物はチェンジした方が良さそうだ。
返せー!俺の時間を返せー!!!
ダメ!!!!!
そう言うと奥の部屋に消えて行く。
戻ってきた手には、デジカメが握られていた。
良いのがあるじゃないか!
すると奥様、
はっ???(゚ロ゚屮)屮
ちょっと何ってるんだか分からないですけど!
啞然とする私たちを尻目に、ああでもない、こうでもないと言いながら、パシャ。
気づいていただけました?
いや、そういう問題じゃねーし!!!
デジカメを持っていない方の手で、故人様のまぶたをグリッ!
反射的に首をブンブン横に振るサブスタッフ。
無料ゲー!(T◇T )
念のためデジカメも確認しましたが、部屋の中で試し撮りしたと思われる、意味不明のブレブレ写真しか入っておらず・・・
ご遺体の写真は諦めて?、必死に三人で探した結果、障害者手帳を作る際に撮った証明写真が一枚見つかりました。
お陰で何とか事なきを得ましたが、ある程度のお歳になったら遺影写真の一枚くらい用意しておこうね!って思ったとんでもない遺族の話。