【とんでもない遺族の話】
火葬後の解散式も終わり、ひとりまたひとりと会葬者が家路に着く。
残された喪主さん(故人の妻)と、故人の弟。
ところでこの喪主さんが中々のくせ者。
御歳80歳超とあって、若干・・・いやかなり頭が弱くなっている。
故人の弟さんが要所要所でバックアップしてくれたから、良かったものの、タイマンでのやり取りは中々にしてキツい。
我ながら良くここまでこぎつけたものだ。
自分で自分を褒めたいと思います!
などと、バルセロナ五輪で銀メダルを取った、元マラソン日本女子代表の有村優子バリの名言を口にしたくもなる。
さぁ、後は彼らを送り出した後、遺影・遺骨・遺影を飾る後段やら、自宅用の返礼品、生花、弔電やら何やらをご自宅に届ければ、ひとまず終了だ。
あとひと踏ん張りだ。
ガンバレニッポン!
「これからご自宅に、故人様を安置する後段や、生花などをお持ちしますね」
「ところでこれからしばらくは、式場に来られなかった親戚さんとかご近所の方が、ご自宅にお香典を持って、いらっしゃることもあると思うんですよ」
「そうですよね。後から来てくれるとかって言ってくださる近所の方もいたんですよ」
「つきましてはその方達用に、2-3週間は返礼品を幾つかご自宅に置いて置かれた方が良いと思うんですよ。後から返品や追加は可能ですが、当面の分として一旦幾つくらいご用意しますか?」
「かしこまりました。それでは皆さんがお帰りになられてから、10分、15分くらいでご自宅の方にお伺いしますので、家に居てくださいね」
無事御喪家を送り出した後、予定通り10分後くらいに私もご自宅に到着。
すると普段着に着替えて出かけようとしている喪主さんが。。。
イヤイヤ!
「あら、葬儀屋さん?まだ何かありましたっけ?」
イヤイヤイヤイヤ!
一人暮らしのあんたが出かけちゃったら、おいらは一体どうすれば良いんだよ!?
まさかの一から説明のし直し。
ってかそんなことより、家に入ってびっくり仰天!
これぞまさにリアルゴミ屋敷!
リアル鬼ごっこといい、リアルポンキッキーズといい、「リアル」はキツいって。。。
中々の豪邸にゴミ満載!弟が頑なに姉の家に一緒に行くことを拒んだ原因はこれだったのか・・・
気持ち的には、すぐにでも引き返したい所だが、そうもいかないのか葬儀屋の辛い所。
後段やら、生花やら、返礼品の段ボールを運び込む。
「葬儀屋さん、そちらの段ボールは何かしら?」
「そうです。これからまだご近所の方がとか、お香典を持っていらっしゃると思うので、2-3週間は返礼品を幾つか置いておいた方がよろしいのでは?ということで、先ほどお話しさせていただいた・・・」
「まぁ、そんな所まで気を遣ってくださるの!?有難う。そうそう、近所と言えば、まだご近所の方で、後から自宅に来てくださるっていう方が何人かいるんですよ」
「あら?でもそういう方には、何かお返ししなければいけないのよね?私そういうの全然分からないんだけど、そういう場合はどうしたら良いのかしら?」
だからこれがそれだって言ってんだろー!
俺はあんたに見せびらかすためだけに、片道15分もかけて、こいつを持って来たんじゃねー!
聞けー!人の話を聞けー!
「ですから、その方達用に、ご葬儀でご使用いただいた物と同じ返礼品をお持ちしたんですよ」
「あら、悪いわね〜。それじゃあ、葬儀屋さん、ついでに図々しいお願いをしても良いかしら?」
「これ、ちょっと間、家に置かせてもらって良いかしら?」
無限ループ!!!
何なんだこの誰の特にもならない、不毛な時間は???
俺の時間を返せー!俺の青春を返せー!!対馬の仏像を返せー!!!
もう諦めて、後段の組み立てに入る。
後段の横幅は約1メートルくらいのスチール製。
ゴミの間をすり抜け、飾る場所として案内された、唯一のスペースは、50センチメートルくらいの床の間ただ一箇所。(実際は180センチメーほどの立派な床の間はなんだけど、なんせゴミが。。。)
「奥様、ここは無理ですね。床の間は50センチくらいしかないんですが、後段は1メートルくらいあるんですよ・・・」
「困ったわね〜。うちにはそこくらいしかスペースが無いのよね〜」
この家のゴミ全部捨てれば、50個くらいはラクにいけるけどね・・・
無理でしょ!もしかして俺が青い色の猫型ロボットにでも見えてます!?
「私、ドラえもんじゃ無いんで、無理ですなんですよね〜」
見えてたんかい!?
「ごめんなさいね〜。主人はキレイ好きだったんだけど、私は片付けが出来ない人間だから。。。主人が数年前に入院してからは、ゴミ屋敷になっちゃって、親戚からは人間の住む家じゃ無いって・・・なんちゃら、かんちゃら、どうちゃら、こうちゃら・・・」
5分後・・・
「分かりました。では少し片付けていただいて、スペースが出来ましたら、またご連絡ください。改めて伺います」
「あら悪いわね〜。それにしてもあなたも面倒臭い遺族に当たっちゃって、可哀想に。いろんな遺族がいるから、葬儀屋さんも大変ね〜」
あんただよ!全ての原因はあんただよ!
「主人はキレイ好きだったんだけど、私は片付けが出来ない人間だから・・・主人が入院してからは、ゴミ屋敷になっちゃって、親戚からは人間の住む家じゃ無いって。。。」
慌ててカットイン!
これ以上、1クール5分の無限ループに引き込まれてたまるか!
こっちもそんなに暇じゃねー!
「それじゃあ奥様、返礼品だけよろしくお願いしますね」
「葬儀屋さん、この返礼品は今日持って帰っちゃうんでしょ?」
イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!
ピンポイントで30分だけ置いておく、自宅用の返礼品って、どんなだよ!?
むしろこの時間にピンポイントで香典持ってくる人がいたら、神だわ!
いや、逆にフリか?使わないから、持って帰ってくれっていうフリかなのか???
「いえ。。。ですから・・・今日は持って帰りませんよ。。。」
「あのぅ、図々しいお願いなんだけど・・・『今日は』と言わずに、少しの間、置いておいてもらえないかしら?」
もう、煮るなり焼くなり好きにしておくれ・・・
オイラはもう疲れたよ。。。
少子高齢化が進むと、葬儀を取り仕切る人間達も高齢者しかいなくなるから、何かと大変だよね、って思ったとんでもない遺族の話。