とんでもない葬儀屋の話
今だから笑える、ある意味私の葬儀屋史上、最も焦った失敗談のひとつ。
いつもの様に慌ただしく通夜の準備をしていると、本日のお式の喪主様ご到着。挨拶を済ませ、斎場周りの確認からしていただくことに。
出入りの花屋さんと一緒に、生花の名札チェックや、フルーツの詰まった盛籠の大まかな配置を確認。
通常は担当の私が全体のバランスを見ながら指示を出し、それを聞きながら他のスタッフが移動するのですが、生憎他のスタッフが見当たらない。
仕方が無いので、自分で移動させることにしたが、これが結構重い。
フンッ!
気合を入れて盛籠を持ち上げた次の瞬間・・・
バリッ!!!
明らかにヤベぇタイプの音が!
恐る恐るスーツのお尻に手を当ててみると・・・
NOー!!!
ズボンの後ろ部分に、見事な20センチ程の亀裂が。
一瞬頭が真っ白に。
それにしても、モーゼもビックリなくらいの、見事な裂けっぷり。
しかもこういう時に限って、赤主体のボクサーパンツ。
恐る恐る後ろを振り返ると、喪主様は丁度やって来た、会葬者のお爺ちゃんに挨拶中。
ナイス!お爺ちゃん!どこの誰だか知らんけど!
グッジョブ!後でアイスおごっちゃる!
とにかくソーイングセット的なやつを探さねば。
取り敢えずソッコーで盛籠を移動させ、スーツの割れ目を、おケツの割れ目で挟みつつ、その場を退散。
途中置いてあった、資料入りのファイルを後ろ手で持って、お尻を隠しながら、一目散にスタッフ控え室へ。
通夜前の斎場内は戦場だ。下請け業者のスタッフが内容を確認すべく、一気に担当者に襲いかかってくる。
降りかかる火の粉?を全力で払いのけつつ、スタッフ控え室の隣の道具部屋へ。
さっそくスーツの上着を着て、鏡でチェック。
試しに深々とお辞儀をしてみると・・・
「こんにちわー!」
赤いパンツが勢いよくご挨拶!
もしかしてと思ったが、やっぱりソーイングセットなんて、気の利いたものを持っているはずはなかった・・・
式中もお寺さんのサポート等でしゃがむことも多い。そいつを考えると、軽いめまいが・・・
厳粛な式だけにぶち壊すなどもっての他。
仕方がない。禁断の手を使うか・・・
道具箱を開け、供物のフルーツを盛り付けるときに使う、細い楊枝を取り出す。
楊枝って・・・
冷静に考えればおかしな話だが、究極にテンパってる時は、なかなか良いアイデアに思えるから不思議だ。
取り敢えずモノは試しってんで、スーツの裂け目部分の布を内側に折込み、楊枝をブッ刺して留めることに。
これが思ったより上手い具合に留まるではないか!!!
ナイス!楊枝!グッジョブ!
後でアイスおごっちゃる!
兎に角2時間足らず耐えてくれればそれで良し。
念の為深々とお辞儀。
ギャアー!!!
あまり良く考えずに楊枝をブッ刺したもんだから、楊枝の先がケツの穴にブッ刺さっちまったよ!
危ない危ない・・・危うく「ボラギノール」買いに行かなきゃならんとこだった・・・
スーツの裂け目は楊枝で塞ぎ、ケツの割れ目はボラギノールで塞ぐなんて、洒落にもならん・・・
その後ホチキスで留めてみたりもしたが、いかんせんパワー不足・・・
そりゃあ、相手は紙じゃなくて、布なんだし、ちぃと荷が重い。。。
そうこうしているうちに、隣のスタッフ控え室に人が。
息を殺して出て行くのを待っていると、聞き慣れた声が。
フッ、小学校時代から会話のレベルが変わらんやつらめ。
まぁ良い、何とでも言え。何とでも言うが良いさ。
置かれた状況が厳しくとも、男には黙って耐えねばならぬ時がある!
色即是空 改め、ウ○コ是空。
ここは甘んじて受け入れようではないか!
スタッフが出て行った後、これ以上は時間を掛けられないので、ご遺族が腰に付ける喪章(リボン)の安全ピンを何本か引っこ抜いて、数箇所仮留めすることに。
その後すぐに現場に戻り、猛スピードで周りのスタッフに支持。
どう解釈しようとおぬしの勝手だが、俺はウソは言っとらん。
何だかんだで無事準備は終了。
一息ついているところに司会の女性がやってきて一言。
すまん。(納品業者の)おっちゃん・・・
男には黙って耐えねばならん時がある・・・
悪いが甘んじて受け入れてくれ。
ってことで許してちょ。m(_ _)m
いや~それにしても今までの葬儀で一番力の入った葬儀でした。
勿論 【ケツに!」 ですが・・・
それにしても『備えあれば憂いなし』
今度からはソーイングセットを持ち歩こうっと。
なんて思ったとんでもない葬儀屋(俺)の話。