【とんでもない遺族の話】
葬儀で使う大切な遺影の写真。終活ブームで本人が事前に用意しているケースもあるけど、まだまだ大抵の場合、事前に生前の写真から遺族に写真を選んでもらい、それを引き延ばして使用します。
とある70代後半の女性の葬儀。
遺影の写真は喪主様である故人のご主人が決めた。
こいつが後に大事件を引き起こすとは、その時の私は知る由もない。。。
遺影の写真は10年ほど前の、お遍路さんの時のもの。
若干不鮮明なのが気になったが、目ぼしいものはそれしかないとのことでは仕方がない。
写真屋さんに出来るだけクリアにしてもらうように依頼して出来上がった写真を、祭壇中央にお飾りする。
う〜ん。やはりちょっと不鮮明だ。喪主様は仕方ないとおっしゃってくれたが、会葬者に何か言われなければ良いが。。。
果たしてその予感は的中した。
先に来た喪主様方の親族の何人かは「それでも良い写真だ」と概ね褒めてくれたので、すっかり油断していた。
最要注意人物が斎場に現れるまでは。。。
はるばる東北から出てきたという故人のお姉さんが斎場入り。
斎場入りするなり、
付き添ってきたお姉さんの娘さんと思われる人が、私を呼び止める。
へ~そうなんですね~。よく似ていらっしゃる~
あ〜、なるほど、どおりでそっくりわけだ!血は争えませんね〜♪
ガッデーム!!!
喪主!出て来いやー!
もちろん間違えたのは喪主様。
近しい親戚で行ったお遍路さんの時に撮られた集合写真には、故人様の隣にお姉さん一家も写っていた。
確かに似てはいる。間違えたのだ。
葬儀までの時間もなく、バタバタしていたのも確かだ。
ブチ切れるお姉様。
まぁ、葬儀に来て、自分の写真が祭壇に飾られてたら、そうなるわな。
ははっ。。。(乾いた笑い)
おいら、もう帰って良いかな。。。?
ラン、ランララランランラン、ラン、ランララランランラン、ララララララララ♪
ナウシカと共に金色の海原をしばし駆け巡る。
しかしあっという間に、現実世界に引き戻される。
持っていた杖でボコボコにされる喪主様には悪いが、救済している余裕はない!ソッコーで写真屋さんに電話をかける。
開式1時間を切っている。当然の答えだ。
しかし、ここで引き下がるわけには行かない。なんせ斎場内は文字通り修羅場だ。
お姉さんの怒号と喪主様の断末魔の叫びが飛び交う!
力強い!
僅かばかりの希望の光が見えてきた次の瞬間、
写真屋さんの奥さんの声が電話越しに聞こえてくる。
予定有り。ダメか!?
万事休す・・・そう思った矢先・・・
電話越しにがなりたてる写真屋のご主人の声。
力強い!無駄に力強い!
神様!仏様!写真屋様!
さすがに遺影無しで葬儀を始める訳にはいかない。
「ご主人が遺影の写真間違えたらしいよ。」
親戚のひそひそ話が聞こえる中、今はただただ永遠とも思える時間をじっと待つしかない。
喪主様にとっては針のむしろだろうが、非難されるのは仕方がない。
だって本当のことだもん!
それでも状況を察した写真屋さんが、最善を尽くしてくれたおかげで、助かった。
さすがに時間通りにとはいかなかったが、それでもどうにかこうにか10分遅れで、無事開式までこぎ着けた。
詳しくは聞かなかったが、遺産相続でもめた過去があり、義理の姉との仲はあまり上手くいってはいなかったらしい。
あの剣幕からすると、写真が手配できなかったら、喪主様は重りと共に東京湾に沈められていただろう。
フッ、命拾いしたな、喪主様。
無事式が終わって、遺族は通夜振る舞いの席に着いた。
ひとり斎場に残り、遺影を見つめる。
振り返ると申し訳なさそうに頭をかく喪主様の姿が。
いや、全然違うよ!
確かに似てはいるが、明らかに別人だよ!
今すぐ眼科に行って来い!
そう心の中で突っ込まずにはいられなかったとんでもない遺族の話。