【とんでもない会葬者の話】
少しずつ暖かくなってきました。そろそろコートを手放す時期に入り、葬儀屋は少しホッとしています。
何せこのコートと言うのは、葬儀屋にとって、少々厄介な存在なんです。
ようやく暖かくなってきたと思ったら、夜は一気に冷え込んだ。
通夜に参列する一般の会葬者は、皆コートをしっかりと着込んでやってきた。
このコートが実に厄介だ。
クロークでもあれば良いのだが、残念ながらそんな気の利いたものを備えている斎場は、ごく僅かだ。
各自手に持ったまま行動して欲しいところだが、何せ会葬の邪魔になる。
だからコートを掛けておく類の物が何も準備されていなければ、それはそれで不満が出る。
そんなこんなで大抵はハンガーラックを2.3個準備して、斎場の端に設置する。
ラックは置くが、管理は各自にお願いする。下手に触って、紛失・取り違い等の問題が起きては大変だ。
準備は整った。
定刻通りに式が始まる。
一般の会葬者はロビーのハンガーにコートを掛けた後、受付を済ませて、焼香の列へと並ぶ。
焼香が終われば、返礼品を受け取り、コートを取って通夜振る舞いの部屋へと進む流れだ。
一般会葬者の焼香が終わり、最後の女性がコートを取って通夜振る舞いの部屋へと消えて行く・・・はずだった。。。
ところが、酷くうろたえた表情の女性が、私の元に駆け寄ってくる。
見るとコートが一着ハンガーに残っている。
色も形も似通っている。コートの取り間違え騒ぎは、葬儀屋あるあるだ。
私が尋ねると、女性は怪訝な表情を浮かべながら答える。
えっ!?どういうこと?
女性のコートなら分かるが、男性用って・・・
どういうこと?(二度目)
一般会葬者は誰も残っていない。
男性用のコートは単なる忘れ物で、この女性のコートの方は盗まれたのか?
あるいはどこかの男性が女性用のコートを間違って取って行ってしまったという事か?
イヤイヤ、いくら何でも女性用と男性用のコートを間違えるって・・・
無いな。
しかし、ここであれこれ考えていても始まらない。
取り敢えず大急ぎで、残された男性用のコートを引っさげ、精進落とし部屋へと向かう。そのまま帰られてしまってはそれこそ一大事だ。
コートを手に、賑やかな部屋の中を、女性と共に駆け回る。
もう大分出来上がった男性が、ビール瓶片手にコートを覗き込む。
隣にいた奥様と思しき女性がたしなめる。
女性に悪態をつきながら、男性が隣にあった自分のコートを手に取る。
コートを探していた女性がとっさに叫ぶ。
お前かー!
頭出せや!ジジィ!
テッカテカの頭に、寿司のワサビを擦り込んでやる!
しにりに首をかしげる、酔っ払いオヤジ改め【ジジィ】
挙げ句の果て、開き直りやがった!
テメェコラー!
アタマ出せや!ジジィ!
テッカテカの頭をレモン醤油まみれにしてやる!
すると先ほどの奥様らしき女性がチクリ。
そして、私にゆっくりと微笑む。
場内爆笑!
当の本人を見ると、すっかり大人しくなって、バツが悪そうにビールをチビチビやっている。
そう言って部屋を後にした。
悪いがジイさん、どうやらこの勝負、俺の勝ちだな!(意味不明)
いや〜それにしてもスッキリした!
本来ならテッカテカの頭に、熱々の線香ぶっ刺してやりたいところだが、ここはひとつ賢い奥様に免じて許してやるか笑
まぁ、誰にでも間違えはあるものですが、明日は我が身。
自分に限って!なんて思い込みに浸ってふんぞり返っていると、思わぬしっぺ返しを受けるもの。
何はともあれ参列時のお手回り品にはくれぐれもご注意ください。
故人様に心よりの哀悼の意を表して
合掌