【季節限定】サクラ吹雪舞う死出の門出の珍事

【とんでもない葬儀屋の話】

私の勤める葬儀屋の社長は、結構なのおじいちゃん。

基本的に式は私に任せて、後ろで静かに見守っている様な、とても穏やかな人なのだが、昔は重くて大きな白木の祭壇を、一人で組んでしまうような 、とてつもなくパワフルな方で、 年を取ったとはいえ、そのパワーは今も健在。

たま~にスイッチが入ると、おじいちゃんとはとても思えない、とんでもないスピードとパワーを発揮する。

とある80代女性の葬儀。

告別式は進行し、最後に祭壇の花を会葬者みんなで棺の中に入れる「お別れの儀」へ。

喪主をお務めになられた故人の娘さんが、

会葬者 (6)
喪主
「こんなに沢山のお花で飾っていただいて・・・花が好きだった母も喜びます。よかったね、お母さん。」

そうお棺に語りかける。

待ってました!!!

私はすかさずは斎場の隅の方で、ちょこんとたたずむ社長をチラ見しながら、

 
「そうですか。ちょうども見頃を迎えました。お花が大好きなお母様に相応しく、キレイに咲き誇った桜の中での死出の門出となりましたね」
 
「今日は斎場から、火葬上までの道中ですが、霊柩車の運転手に言って、なるべく沢山の桜が見れる道を走らせましょう」

そう言うと喪主様は、

会葬者 (6)
喪主
「ありがとうございます。母もきっと喜んでいると思います。なんせここ2ヶ月は病院で寝たきりで、桜もよく見れなかったと思うので」

と、おっしゃられて、そっと涙を拭われました。 

そんな感動的なやり取りの横で、確かに何かのスイッチが入るのを私は肌で感じ取りました。

斎場の一番後ろで、穏やかに僕と喪主様のやり取りを聞いていた社長が、急にカッと目を見開き、

「はぁっ!!!」

と唸ったかと思うと、とんでもない勢いで外に飛び出していきました。

そしてモノの30秒もしないうちに、戻ってきた社長の手には、直径3cm、長さ1mはあろうかという立派な桜の木の枝が!

会葬のおじいちゃん
社長
「これ、係りの者に用意させました!良かったらお棺の中に入れてあげてください!!!」

と言いながら、勢いよく桜の木の枝を喪主様に差し出す社長。

その見事さに驚きつつも、

会葬者 (6)
喪主
「お母さん、よかったね。よかったね。」

そう言って何度も涙を拭いながら、 桜の花の沢山ついた枝を棺に納める喪主様。

会葬者のすすり泣く声だけが、静かに響き渡り、 再び大きな悲しみに包まれる会場。

その後、無事出棺の運びとなりました。

私達が外の門のところでお見送りする中、お棺を乗せた霊柩車は、無事火葬場へと旅立っていきました。

ここまででひとまず担当の仕事はひと段落。火葬場へは別のスタッフが同行してくれます。

他のスタッフと一緒に門の脇に立つ桜の木の下で、キレイに咲き誇った桜を眺めながら、 しみじみと会話する。

 
「あれだね・・・」
男性
スタッフ
「あれですね・・・」
 
「間違いないね・・・」
男性
スタッフ
「間違いないっすね・・・」

二人の見上げる先には・・・

見事に根元からボッキリ枝を折られた桜の木が・・・。

そこに業界歴1年、葬儀の生花を担当している、花屋のスタッフが。

生花部スタッフ
花屋
「色即是空さん、お疲れ様でした。 ありがとうございました。ところで社長が途中で持ってきた桜って、 どうされたんすか?」
 
「どうしたと思います?」
生花部スタッフ
花屋
「注文があればウチから持ってきますけど、 今回はウチに注文なかったのに桜入れてたんで、どうしたのかな~っと思って」
 
「この桜の木の枝でも へし折ったんじゃないんすかね~?笑ほらあの辺り・・・」
生花部スタッフ
花屋
「イヤイヤ、色即是空さん、まさかでしょ!?でもよく見たらほんとに、枝をへし折った跡があったりして笑。 そう言えばあの辺りにちょっと怪しい痕跡があるような・・・」
生花部スタッフ
花屋
「・・・・・・」

「えー!?マジですか・・・」

花屋のスタッフも、根元からボッキリ折られたばかりの枝発見!!!

生花部スタッフ
花屋
「; ̄ロ ̄)!!」
 
「ハハハハ・・・・( ̄□||||」 」

そうなんです。

キーワードは「桜」「キレイ」「咲く」。

昔からその言葉を聞くと、何故か社長、スイッチが入ってしまうんです。

この時期にしか見られない社長の必殺技。

これを見ると、

「春だな~♪」

って思うんですよね。

まぁ自分の会社の桜ですから、別にどうしようと勝手ですが、社長、くれぐれも貸し斎場とかでやらないでくださいね! 

何はともあれ、遺族の方がとても喜んでくれたんで、 良かったんですが。

あちらの世界で、社長のへし折った桜でも見ながら、 心ゆくまでお花見を楽しんでいただけたら、桜の枝も折られた甲斐があったというものです。

「願わくば 花の下にて春死なん その如月の  望月のころ」 

詠み人 西行

日本人として咲き乱れる桜に見送られながら、静かに人生の幕を閉じられたなら、 こんなに幸せなことはないですね。

故人様の心からの哀悼の意を表して

合掌

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