読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

死人の詩 -シビトノウタ-

葬儀屋バカ一代の葬式ブログ。誰もが気になる葬儀の話。実際にあったおかしな葬式や失敗談、仏事で役立つ葬儀豆知識など。

サクラ吹雪舞う死出の門出

【スポンサーリンク】

 僕の勤める葬儀屋の社長は、70代中盤のおじいちゃん。

基本的に式は私に任せて、後ろで静かに見守っている様な、とても穏やかな人なのだが、昔は重くて大きな白木の祭壇を、一人で組んでしまうような 、とてつもなくパワフルな方で、 年を取ったとはいえ、そのパワーは今も健在。

たま~にスイッチが入ると、70過ぎとはとても思えない、とんでもないスピードとパワーを発揮する。

 

f:id:beauty-box:20150408235728j:plain

 

今日のお式の主役は、80代のお婆様。

式は進行し、最後に祭壇の花を捥〔も〕いで、会葬者みんなで柩の中にお花を入れてあげる「お別れの儀」へ。

喪主をお務めになられた故人の娘さんが、「こんなに沢山のお花で飾っていただいて・・・花が好きだった母も喜びます。よかったね、お母さん。」とお棺〔ひつぎ〕に語りかける。

 

待ってました!!!

 

すかさず僕は斎場の隅の方で、ちょこんとたたずむ社長をチラ見しならが、

「そうですか。ちょうども見頃を迎えました。お花が大好きなお母様に相応しく、キレイ咲き誇った桜の中での死出の門出となりましたね。今日は斎場から、火葬上までの道中ですが、霊柩車の運転手に言って、なるべく沢山の桜が見れる道を走らせましょう。」

と言うと、 喪主様は、

「ありがとうございます。母もきっと喜んでいると思います。なんせここ2ヶ月は病院で寝たきりで、桜もよく見れなかったと思うので。」

と、おっしゃられて、そっと涙を拭〔ぬぐ〕われました。 

 

 そんな感動的なやり取りの横で、確かに何かのスイッチが入るのを私は肌で感じ取りました。

斎場の一番後ろで、穏やかに僕と喪主様のやり取りを聞いていた社長が、急にカッと目を見開き、

 

「はぁっ!!!」

 

と唸ったかと思うと、とんでもない勢いで外に飛び出していきました。

 

モノの30秒もしないうちに、戻ってきた社長の手には、直径3cm、長さ1mはあろうかという立派な桜の木の枝が!

 

「これ、係りの者に用意させました!良かったらお棺の中に入れてあげてください!!!」

と言いながら、勢いよく桜の木の枝を喪主様に差し出す社長。

その見事さに驚きつつも、

「お母さん、よかったね。よかったね。」

と何度も涙を拭いながら、 桜の花の沢山ついた枝を棺に納める喪主様。

会葬者のすすり泣く声だけが、静かに響き渡り、 再び大きな悲しみに包まれる会場。

その後、無事出棺の運びとなりました。

私達が外の門のところでお見送りする中、お棺を乗せた霊柩車は、無事火葬場へと旅立っていきました。

 

ここまででひとまず担当の仕事はひと段落。

他のスタッフと一緒に門の脇に立つ桜の木の下で、キレイに咲き誇った桜を眺めながら、 しみじみと会話。

 

私「あれだね・・・」

スタッフ「あれですね・・・」

私「間違いないね・・・」

スタッフ「間違いないっすね・・・」

 

二人の見上げる先には・・・

 

 

見事に根元からボッキリ折られた枝が・・・。

 

 

そこに葬儀の生花を担当している、花屋のスタッフが。

 

花屋さん「古本マンさん(僕のこと)お疲れ様でした。 ありがとうございました。ところで社長が途中で持ってきた桜って、 どうされたんすか?」

僕「どうしたと思います?」

花屋さん「注文があれば勿論持ってきますけど、 今回はそんな注文なかったんでどうしたのかな~っと思って。」

私「この桜の木の枝でも へし折ったんじゃないんすかね~?笑ほらあの辺り・・・」

お花屋さん「イヤイヤ、古本マンさん、まさかでしょ!?でもよく見たらほんとに、枝をへし折った跡があったりして笑。 そう言えばあの辺りにちょっと怪しい痕跡があるよう・・・

 

えー!!!

 

花屋のスタッフも、根元からボッキリ折られたばかりの枝発見!!!

 

花屋さん「; ̄ロ ̄)!!」

 

僕「ハハハハ・・・・( ̄□||||」 」

 

そうなんです。

キーワードは「桜」「キレイ」「咲く」。

昔からその言葉を聞くと、何故かスイッチが入ってしまうんです。

 

この時期にしか見られない社長の必殺技。

これを見ると、

 

「春だな~♪」

 

って思うんですよね。

 

まぁ自分の会社の桜ですから、別にどうしようと勝手ですが、

「社長、くれぐれも貸し斎場とかでやらないでくださいね! 」

 

何はともあれ、遺族の方がとても喜んでくれたんで、 良かったんですが。

 

あちらの世界で、社長のへし折った桜でも見ながら、 心ゆくまでお花見を楽しんでいただけたら、桜の枝も折られた甲斐があったというものです。

 

「願わくば 花の下にて春死なん その如月の  望月のころ」 

詠み人 西行

 

日本人として咲き乱れる桜に見送られながら、静かに人生の幕を閉じられたなら、 こんなに幸せなことはないですね。

 

故人様の心からのご冥福をお祈りして。