【阪神淡路大震災】「パパ ママ」返事はなく~幼い日、家族を失った~

「震源が神戸だったらどうしよう」。

長野春菜(26)=旧姓・吉田=は東京都北区にいた。車の助手席。フロントガラスの向こうの街灯が大きく揺れた。 地震は収まらない。 不安で胸がつぶれそうになる。涙がこぼれ落ちた。パトカーが赤色灯を光らせ、川沿いを走る。「津波の恐れがあります」。スピーカーから緊迫した声が響いた。どうか、ここが震源であって-。>春菜にとって、阪神・淡路大震災以来の激しい揺れだった。

1995年にさかのぼる。神戸市立魚崎小学校2年、8歳だった。 自宅は東灘区の阪神電鉄沿線。震災の前年、木造2階建ての一軒家に家族で移り住んだ。古い家だが、春菜は「新しい家にお引っ越し」とはしゃいだ。以前のマンションとは違い、小さな庭と井戸があった。

家族4人は2階で寝ていた。子ども部屋には勉強机と2段ベッド。上段に春菜、下段に4歳上の姉綾香。父勝俊と母純=いずれも当時(36)=は隣の部屋にいた。

地震の前夜、春菜は「この4匹、守り神やからね」と姉に言って、お気に入りの縫いぐるみを選んでベッドの四隅に置いた。自分のパジャマのそでにも一体しのばせた。普段は枕元に一つ置くだけ。その夜に限って、なぜそんなことをしたのか、分からない。

怖い夢を見た。 家族でよく行く和食店。親類が全員集まって、ごちそうを食べている。正月のような和やかな雰囲気だ。すると壁の大きな穴から、突然、大きなクマと小さなクマが襲いかかってきた。父がみんなを守ろうと、必死で戦い始めた-。

そこで目が覚めた。 母が部屋に入ってきた。「寒くなるから、暖房強くしに来たんやで」。春菜が「怖い夢見たから、ここにおって」と呼び止めた。「大丈夫やから」。優しく諭し、母は部屋を出て行った。

地震が起こったのは、それから間もなくのこと。地震がどんなものかも知らなかった。ただ、気付いたら、普段は遠くに見える天井が、目の前にあった。 「パパ ママ」 春菜は2度、叫んだ。 返事はなかった。

激しい揺れが収まった後、春菜は叫んだ。隣の部屋の両親から、返事はない。

1995年1月17日未明。神戸市東灘区の自宅は崩れたが、8歳の春菜は、わずかにできたすき間で助かった。 左手を伸ばす。2段ベッドの下で寝ていた姉綾香=当時(12)=が、ぎゅっと握り返してくれた。

真っ暗闇の中で、一筋の光が見える。「出れるかもしれへん」。光に向かって、必死にもがいた。突然、外に出た。

そこで、春菜は、見たこともない光景を目にする。 砂ぼこりが舞う、薄暗い町。まわりの家の屋根が目の高さにある。立ち上がって足もとを見ると、屋根瓦を踏んでいた。春菜の家も、まわりの家も、ぺしゃんこにつぶれていた。

「外に出れたんやけど」。春菜は、中にいる綾香に向けて声を掛けた。「コンコン」。木をたたくような音が聞こえた。春菜も「コンコン」。屋根をたたき返す。「コンコン」「コンコン」…。そんな合図を、何度か繰り返した。 隣に、自分と同じように、つぶれた屋根に立つ人がいた。

「パパとママとお姉ちゃんが埋まっているので、助けてください」。春菜はそばに行って頼んだ。だが、返ってきた言葉は「まだこっちも埋まっとんねん」。

春菜はその後、近所の人に連れられ、魚崎小学校に向かった。 午前8時を過ぎたころ。近くに住む父方の祖母、吉田好子=当時(66)=に連れられ、綾香が小学校にやってきた。

「お姉ちゃーん」「春菜」。姉妹が抱き合う。 避難所となった体育館に身を寄せた。春菜はじっと、入り口を見つめていた。何人もの人が、とめどなく入ってくる。

「きっと2人そろってやってくる。今度来るのがパパとママかもしれない」。そう信じて、入り口から目を離さなかった。 父勝俊と母純=いずれも当時(36)=は、昼を過ぎて、がれきの中から運び出された。診療所に運ばれた時には、もう手遅れだった。

「病院にいるからね。いまは無理。また会わせてやるからね」。好子は、幼い姉妹に両親の死を伝えることはできなかった。

翌18日の未明。北区に住む母方の祖父と叔母が、体育館に迎えに来た。春菜と綾香は車の後部座席に乗った。暗闇の中、がれきが散乱した道を進む。 綾香がつぶやいた。

「パパとママ、死んだんでしょ」

数秒の沈黙があった。 「そうよ」 助手席の叔母、大久保理奈=当時(34)=が答えた。 寒

気が春菜を襲った。体の下の方へ、力がすーっと抜けていった。 春菜は8歳で家族を失った。 親族の話し合いの結果、春菜は母の実家へ、綾香は父の実家へ。姉妹は、離れ離れで引き取られることになる。

神戸新聞

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